薬局コラム お薬手帳の底力
こんにちは、薬剤科の木村です。
当院外来を受診なさっている皆様には、いつも受付時のお薬手帳提出にご協力いただきまして、誠にありがとうございます。
あらかじめ他の医療機関で処方された薬を把握することで、薬の飲み合わせを確認し、できるだけ早く安全にお薬を準備することができています。
このように、いろいろな場面で非常に有用なお薬手帳ですが、その中でも最もその実力を発揮するのが、大きな災害が起こったときとなります。
先日も令和8年熊本地震が発生しました。被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。
まだ令和6年能登半島地震が発生したばかりのように感じる中で、医療従事者として改めて日頃からの準備を怠らぬようにしなければと痛感しております。
さて、恐らく被災地では、今回もお薬手帳が活躍していたのではないかと思われます。
災害時にお薬手帳が有用であると大きく報道されたのは、かの東日本大震災の際でした。
三陸沿岸の医療機関が津波などで機能を喪失する中、全国から本当にたくさんの医療従事者が現地へと向かい、被災者の皆様が治療を受けられるよう不断の努力にて診察を行いました。
しかし、患者様がこれまでどのような病気を患い、どのような治療を受けてきたのか分からなければ、薬をひとつ処方するだけでも判断は困難を極めます。
厳しい状況の中で、あまりにも貴重な情報をもたらしてくれたのが、お薬手帳でした。
普段どのような薬を服用しているかはもちろんのこと、ここからどのような疾病があるのか、使ってはいけないお薬があるかどうかまで、お薬手帳は雄弁に教えてくれました。
このようにして現場の声が集まり、災害時におけるお薬手帳の有用性は、医療従事者の間で急速に広まることとなりました。
最近ではマイナンバーカード一枚で治療歴や処方歴を知ることができるようになり、医療におけるデジタル化は急激に進歩を遂げています。
しかし、読み取りに専用の機械が必要であるため、電源を喪失したり機械そのものが破壊・焼失したりすれば、カードから情報を読み取れるまでにはしばらくの期間を要します。
また近年では、スマートフォンにアプリとして導入できる電子お薬手帳というものが普及してきています。
しかし、これはドラッグストア等の各企業が競合しながら開発しているため、互換性に乏しいという欠点があります。
実際に当院では電子お薬手帳を読み取る機材がなく、個人情報の塊であるスマートフォンをお預かりするわけにもいかないため、一時的に画面を見せてもらって内容を書き写すほかに方法がない状態です。
同時にスマートフォンの電源は被災者にとって大きな問題であり、万が一充電が切れてしまえば電子お薬手帳は内容を読めなくなるという弱点もあります。
紙のお薬手帳は、このような問題を一冊ですべて解決してしまいます。
一見時代に逆行しているようにも見えますが、特に災害時のような状況では、今なお圧倒的な利便性を持っているのです。
医療従事者にとって、災害対策というジャンルは決して避けて通れないものとなりました。
幾度もの経験と反省を繰り返しながら、今では数日のうちにチームを組んだ医療従事者が被災地へと駆け付け、その後も交代で医療の提供を維持する仕組みが出来上がっています。
しかし、そこで診察してくれる医師の先生は、かかりつけ医の先生ほどはあなたのことを知りません。
それでも治療を円滑に続けていくためには、信頼性が高くて読み取りやすい情報源が必要です。
また災害時のほか、出先での急病や事故など不慮の事態に対しても、お薬手帳は必ずや有用な備えとなります。
どうか、お薬手帳を持ち歩く習慣を持っていただけますと幸いです。
文責:薬剤師 木村


